随意的に出来ることとは
君たちは今、自分の意志で体を動かすことができるだろうか?
特殊な病気にかかっていなければ、それは至極当たり前にできるだろう。
体を動かすというのは、筋肉の収縮と弛緩によるものだ。
例えば、力こぶを作るポーズ。これは上腕二頭筋が収縮し、上腕三頭筋が弛緩する。
では、筋肉の収縮と弛緩はどのようなメカニズムかというと、これはやや複雑だ。
筋肉は細かく見ていくと二種類の繊維からなっている。
その二種類の繊維が互いに引っ張り合うことで筋肉は収縮するのだが、収縮するにはもう一つ手間が必要だ。
二種類の繊維のうち細い方の繊維にはトロポミオシンというさらに細い繊維が絡みついている。
このトロポミオシンを解かないと、筋肉は収縮することができない。
トロポミオシンはカルシウムイオンを受容すると、細い方の繊維から離れ、太い方の繊維と結合し、互いに引っ張り合う。
逆にカルシウムイオンが少なくなるとまた絡みつき、筋肉は弛緩する。
力こぶを作るポーズは、上腕二頭筋付近でカルシウムイオンを放出し、上腕三頭筋付近でカルシウムイオンを回収するということなのだ。
そもそも、このカルシウムイオンの放出、回収も、脳からの指令が神経伝達物質を分泌することで、腕までその指令が腕まで届く。
私たちは、この筋肉を動かすという複雑な行為をいとも簡単にやってのける。
指先に至っては、非常に精密な動作が可能だ。
君たちは、自分の体のすごさに感心したかもしれないし、そんなの当たり前だとも思ったかもしれない。
だが、よく考えてほしい。
『私たちが随意的に動かせるのは一部の筋肉だけである。』
人間には、筋肉以外の様々な器官があるはずだ、消化器も上皮も瞳孔も、挙げていけばキリがない。
私たちはそれらほとんどの器官を随意的に機能させることが出来ない。
同じ筋肉である心筋さえも動かすことが出来ない。
私たちの体は異常なほど不自由なのだ。私たちは筋肉だけで満足しているのだ。
そして私はこう考える。
『筋肉ほど複雑な動きが可能であれば、その他の器官も随意的な機能が可能である。』