地道な進化
クルマというのは、ニューモデルを発表したらハイおしまいではなくて、地道に改良が続けられている。自戒の念を込めて書けば、ニューモデルには飛びつくくせに、地味な進化を見逃していることが多い。
というわけで、メルセデス・ベンツのVクラスに小変更が施されたと知って、早速試してみた。
小変更その1は対話型インフォテインメントシステム、MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)が備わった点。「ハーイ、メルセデス」と呼びかけることでカーナビやオーディオ、空調などを音声でコントロールできるシステムだ。
この日は定員7名フル乗車+機材満載でスタートした。率直なところ、初対面の人もいる6人の前で「ハーイ、メルセデス」と、話しかけるのはためらわれた。
けれどもVクラスに話しかけ、ボイスコントロールで目的地を設定すると車内に小さなどよめきが起こった。筆者以外の6人はMBUX初体験だったらしく、「すごい!」「未来のクルマだ」「ナイトライダー!」と、車内は予想外の盛り上がりを見せる。
仕組みを説明すると、助手席に座ったカメラマン氏が2列目シート、3列目シートの乗員からのリクエストを受け、ラジオ局を選んだり空調や照明を設定したり、盛んにVクラスに話しかけている。
人とクルマが声でコミュニケーションを図るMBUXによって、ドライバーだけでなく、パッセンジャーとクルマとの距離も近くなることを実感した。「ハーイ、メルセデス、MBUXのおかげで大人数での移動が楽しくなったよ!」。
小変更その2は、安全運転支援システムであるレーダーセーフティパッケージが標準装備されるようになったこと。危険を察知すると介入する自動ブレーキや、先行車両に追従するクルーズコントロール、車線からはみ出すとハンドルが振動して注意を促す仕組みなどが備わる。
なかでも、斜め後方の死角に入ったクルマや 自転車の存在を知らせてくれるブラインドスポットアシストによって安心して運転することができた。立派なサイズのVクラスはそれだけ死角も大きいわけで、これがあるとないとでは大違いだと感じた。
多人数乗車でわかる真の実力
2.2リッターの ディーゼルターボエンジンと7段ATの組み合わせに変更はないけれど、フル乗車の状態で乗ると、あらためてその力強さに感心する。1400rpmという極低回転域から380Nmの大トルクを発生するというスペック通り、信号待ちからの発進加速も余裕たっぷり。悠々と走り出すから、ストップ&ゴーが続く市街地でもストレスを感じない。
高速道路の登り勾配でも、速度を維持しようと力んでアクセルペダルを踏みつける必要がない。軽〜く力を込めるだけでいいから、回転フィールがスムーズなこととノイズが小さいこともあって、長距離ドライブでも疲れない。
1名乗車と7名乗車では、ひとり65kg平均だとしても400kg近く重量が異なる。それだけ増えても力不足を感じさせないあたり、多人数で乗るための ミニバンにはディーゼルが向いていると、あらためて感じた。
高速道路に入ると、もうひとつ感心する点があった。ひとりで乗ったときよりも、フル乗車&荷物満載のほうが、はるかに乗り心地がしっとりと落ち着いているのだ。
ひとりで乗ると、少し“ぽんぽん”と跳ねるような動きを見せたけれど、7名乗車ではどっしりと安定する。そしてこのフル積載状態でも、ブレーキの効きが甘くなるようなこともない。ある程度の荷重がかかった状態で高速移動することを前提にした足まわりのセッティングなのだ。
パワートレーンにしろ足まわりにしろ、たくさん載せて長距離移動するような本気の使い方にぴたりとフォーカスしているのがVクラスというモデルの特徴だ。そしてMBUXと安全運転支援システムが備わることで、さらに使い勝手がよくなった。
Vクラス、地道というより、着実に進化しています。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)