BMW M2クーペ(FR/8AT)
腕利きもうなる 2023.07.12 試乗記 BMW M社が手がける「M3」や「M4」との血縁関係を深め、「M2クーペ」が2代目に進化した。よりパワフルな3リッター直6ターボに新しい後輪駆動シャシーを組み合わせたハイパフォーマンスモデルの、刺激に満ちた走りを報告する。M4のショートホイールベース版?
今回の新型で通算2代目となるM2クーペは、上級のM3やM4と同等のパワートレインを、より小さな車体に詰め込んだところが最大の魅力だ。ただ、新型と先代=初代で大きく異なるのは、ベースとなる最新「2シリーズ クーペ」のハードウエアが、「3/4シリーズ」との共通性を飛躍的に強めたことである。アーキテクチャーがBMWの全FR系モデルで共有される「CLAR」となり、しかもインテリアの基本デザインまでが3や4と共用化された。
……といった事前情報をもとに、新型M2クーペの諸元をながめると、なかなか興味深い。たとえば、明確なブリスター形状となったオーバーフェンダーによる全幅は1885mm。これはM3よりわずかにせまいが、M4とは同寸法。足もとの「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」は銘柄もサイズもM3/M4と同一。さらにフロントで1615mm、リアで1605mmというトレッドもM3/M4とぴたり同じである。そしてサスペンション設計も共通に見える。
ドライブトレインもしかり。エンジンがM3/M4と共通の「S」系なのは初代(の後期型)と変わらない。加えて、8段ATと6段MTという2種類の変速機やリアアクスルの「Mディファレンシャル」までが、変速比や減速比を含めてM3/M4とまるで同じだ。
つまり、新型M2クーペのハードウエアは「M4のショートホイールベース版?」といえなくもないが、単純にそうともいいきれない。
エンジンチューンは、最高出力と最大トルクともども、少なくとも現時点ではM3やM4のそれより控えめな設定となっている。また、1710~1730kgという車重は、2WD同士だと同じ2ドアのM4と選ぶところはない。車体はM2クーペのほうが小さいから、M3/M4ほどの凝った軽量設計ではないことを意味する。つまり、新型M2クーペはハードウエアの大半をM3やM4と共有しつつも、商品ヒエラルキーとしては細かく差別化されているわけだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
軽快でカジュアルな味わい
先代=初代M2クーペはサイズが3や4より小さいだけでなく、車体やシャシーの設計もよりベーシックだった。そこにM3やM4と同等の心臓が押し込まれたのだから、動力性能は過剰というほかなかった。よって、初代M2クーペの走りは肉感的なオーバーフェンダーに包まれた極太タイヤをもってしても、M3/M4とは別種のヒリヒリした緊張感に満ちていた。そうした「いつでもいったるぞ!」的なスリリングな運転感覚こそ、筋金入りのエンスージアストがM2クーペに喝采を送った理由のひとつだった。
そんな初代と比較すると、新型の走りはすこぶる安定している。誤解を恐れずにいえば、拍子ぬけするほど、安心して“踏める”クルマになった。550N・mのトルクを後輪に遠慮なくたたきつけても、少なくとも路面が乾いていれば、不意に横方向に逃げるようなこともまずない。アクセルを踏んだぶんだけ、きっちりと前に蹴り出してくれるのだ。
この飛躍的に高まったトラクションこそ、新型M2クーペの真骨頂である。初代のスリルを懐かしむ声もあろうが、アマチュアドライバーの筆者には、新型のほうが明らかに安心感があり、すこぶる扱いやすく、そして速い。これはなにより、M3やM4などの上級のMと共通化されたぜいたくな基本フィジカルのおかげだろう。
同時に、新型M2クーペは走行系の制御デバイスも、M3/M4から多くを踏襲する。たとえば、走りの味つけもお仕着せの「○○モード」から選ぶのではなく、エンジンやダンパー、パワステ、ブレーキなどの設定を2パターン記憶させて、ボタンで呼び出すタイプとなった。この「Mドライブ」もM3/M4でおなじみだ。
Mドライブで可変ダンパー制御をコンフォートにすると、路面感覚はふわりと柔らかくなるが、M3/M4より上下動は多い。M2クーペ特有の短いディメンションのほかに、上屋の剛性や「Z4」との共通部分もあるという骨格設計にも差があるのだろう。いずれにしても、M2クーペのほうが良くも悪くも、軽快でカジュアルな味わいともいえる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
総合的にはAT車に軍配
上級のM3やM4がいつしか4WDとATが主力になったのとは対照的に、新型M2クーペはいまだ2WDのみで、古典的な6段MTも残される。こうしたスパルタンな態度もまた、筋金入りの猛者たちの琴線をくすぐるわけだ。
そもそも、こんな高速スポーツカーをMTで操れることじたいが、今どきは奇跡に近いだろう。しかし、性能や効率をクールに判断すれば、今回の試乗車でもある8段ATが、本流の本命というほかない。カタログ燃費も加速性能もすべて、トルコンATのほうが上回る。新型M2クーペのMTには最近のお約束である回転合わせ機能(BMWでの呼称は「シフトアシスト」)も備わるが、変速そのものもATのほうが体感的には何倍も速い。
M3やM4よりあえて控えめな調律にとどめられる3リッター直6ツインターボは、低回転からトルキーで柔軟そのものだが、少なくとも単独で乗るかぎり、高回転域の快感においてはM3やM4に遜色はほとんどない。しかし、Mエンジン本来の味を楽しみたいなら、グワッとトルクを増す4000rpmは維持したい。さらに5000rpm以上になると、パンチ力を増して、いよいよ食いつくようなレスポンスに変わっていく。そして7200rpmトップエンドにいたるまで、ある種の重みを伴いながら吹け上がる展開はたまらない。
そうした本来の快感をよりキメ細かく引き出せるのも、やはりギアが多いATなのだ。そういえば、つい最近、変速機ちがいの新型M2クーペを同時に乗り比べる機会があった。車検証上の前軸重が10kg軽いMT車のステアリングレスポンスがわずかにシャープだったが、総合的にはやはり、パワートレインの融通性に分があるAT車に、筆者個人は軍配を上げたいところである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
コスパ的な魅力も大
横滑り防止装置の「DSC」をオン、もしくはその介入を制限する「MDM(Mダイナミックミックモード)」にしておくかぎり、新型M2クーペはミズスマシのように曲がりつつも、安定感は損なわれない。ただし、同車は後輪駆動車のキモでもあるトラクション機能でも、上級のM3/M4で話題となったあれやこれを引き継ぐ。
DSCオフで起動して、10段階という細かい設定ができる「Mトラクションコントロール」もそのひとつだ。これを使って、腕利きのドライバーがしかるべき環境で走らせれば、新型M2クーペがM3やM4以上に喜々としてドリフトをかませるのは、その短いディメンションから容易に想像がつく。その成果を評価する「ドリフトアナライザー」も当然ながら備わる。
アマチュアの筆者による公道試乗にかぎられた今回は、自慢のドリフト性能を試すことはなかった。しかし、基本的なトラクション性能が初代から飛躍的に進化していることは、普通に走らせているだけでもヒシヒシと伝わってくる。そんな新型M2クーペなら、角度と飛距離を兼ね備えた、より攻撃的なドリフトも可能なんだろう……と勝手に想像した。
ところで、主要ハードウエアは基本的にM3やM4と共通ながら、同じ2WDのM4より400万円安い新型M2クーペは、そもそも割安感にあふれる。ただ、M2クーペは車体サイズやエンジン性能だけでなく、いわゆるADAS(先進運転支援システム)でも、渋滞ハンズオフや車線トレースなどの機能が省かれるのは残念だ。
とはいえ、衝突軽減ブレーキや道路標識認識機能、車線逸脱警告といった安全にまつわる基本的なADAS機能やアダプティブクルーズコントロール(MTは非装備)、直前の前進50m走行(車速35km/h以下)をリバースで再現する「パーキングアシスト」は標準装備。M3やM4の価格を正当とするなら、M2クーペはやっぱり割安というほかない。筋金入りのみなさんをひきつけるM2クーペの魅力は、このコスパによるところも大きいのだろう。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW M2クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4580×1885×1410mm
ホイールベース:2745mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:460PS(338kW)/6250rpm
最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/2650-5870rpm
タイヤ:(前)275/35R19 100Y XL/(後)285/30R20 99Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:10.1km/リッター(WLTCモード)
価格:958万円/テスト車:980万4000円
オプション装備:ボディーカラー<Mトロントレッド>(0万円)/ヴァーネスカレザー<ブラック/ブルーステッチ付き>(0円)/ハイラインパッケージ<アラームシステム、サンプロテクションガラス、harman/kardonサラウンドサウンドシステム>(15万4000円)/19/20インチMライトアロイホイール ダブルスポークスタイリング930Mバイカラー<ブラック>(2万8000円)/Mアルミニウムロンビクルインテリアトリム(4万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3460km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:388.3km
使用燃料:48.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |
拡大 |
佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX プロトタイプ(4WD/CVT)【試乗記】 2024.10.17 「スバル・クロストレック」にハイブリッドモデルの「S:HEV」が登場。もちろん自慢の水平対向エンジンとシンメトリーAWDはそのままに豊かなパワーと優れた燃費を実現した、スバルが言うところの「ストロングハイブリッド」である。プロトタイプモデルの仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・シビックRS(FF/6MT)/シビックEX(FF/CVT)【試乗記】 2024.10.16 マイナーチェンジした「ホンダ・シビック」が登場。専用チューンが施された最高出力184PSの1.5リッター直4直噴ターボエンジンに6段MTを組み合わせる「RS」グレードと、同出力のベースエンジンを搭載するCVT車「EX」の初公道試乗リポートをお届けする。
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATIC(4WD/8AT)【試乗記】 2024.10.15 メルセデス・ベンツのSUVのなかでも、比較的コンパクト(それでも十分デカいが)な「GLB」。全長4.7mを切る3列シートSUVは、他の兄弟とはどう違うのか? 多人数乗車モデルとしての資質はいかほどか? 改良後のディーゼル+4WDモデルで確かめた。
-
メルセデスAMG G63ローンチエディション(4WD/9AT)【試乗記】 2024.10.14 「メルセデス・ベンツGクラス」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。ご覧のとおり外観はほとんどこれまでどおりだが、中身は時代の要請に合わせてきっちり進化を果たしている。V8エンジン搭載の「メルセデスAMG G63ローンチエディション」を試す。
-
BMW 120(FF/7AT)/M135 xDrive(4WD/7AT)【海外試乗記】 2024.10.11 FFへの歴史的転換からはや5年。「BMW 1シリーズ」がフルモデルチェンジを受けた。4代目となる新型でもドライブトレインのレイアウトはFFを踏襲しているが、そのドライビングフィールには確かな進化のアトが感じられる。「120」と「M135 xDrive」の仕上がりを報告する。
- BMWの新車カタログ
- M2 クーペの新車カタログ
- BMWの中古車
- M2 クーペの中古車
- 自動車人気ランキング
- 中古車人気ランキング
-
NEW
歴代の記念モデルでたどる「マツダ・ロードスター」の35年
2024.10.22デイリーコラム「マツダ・ロードスター」が誕生35周年を迎え、ファンイベントの場でこれを祝う記念モデルがお披露目された。その中身を詳しく見つつ、10、20、25、30周年の節目でリリースされた過去の記念モデルも振り返ってみる。 -
NEW
いまからデビューが気になっているクルマは?
2024.10.22あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジニアとして長年クルマの開発を取りまとめてきた多田哲哉さん。では、今後出ることが予想される新型車のなかで、気になっているモデルはあるのか? その理由についても聞いてみた。 -
NEW
マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー(MR/8AT)【試乗記】
2024.10.22試乗記「マクラーレン・アルトゥーラ スパイダー」のルーフはあっという間に開いて瞬く間に閉まる。つまりいつでもどこでも700PSの最高出力とオープンエアドライビングが楽しめる。東京を離れて西を目指したのは、ある晴れた日のことだった。 -
NEW
第807回:「ロードスター35周年記念車」もお披露目! 「マツダ・ファン・フェスタ2024」見聞録
2024.10.21エディターから一言マツダが富士スピードウェイで「マツダファンフェスタ2024」を開催。かねて登場がうわさされていた「ロードスター35周年記念車」を初公開した。ファンなら大満足なイベントの様子と、気になる35周年記念車の詳細を、会場からリポートする。 -
BMW iX2 xDrive30 Mスポーツ(4WD)【試乗記】
2024.10.21試乗記フルモデルチェンジで第2世代に進化したBMWのクーペSUV「X2」。そのラインナップに加わったBEV「iX2」のステアリングを握り、一新されたクーペライクなフォルムと、システム最高出力306PSを誇る電動4WDパワートレインが織りなす走りを確かめた。 -
日産の“車中泊車”はお得でハッピー!? お出かけスペシャル「MYROOM」シリーズのメリットについて考える
2024.10.21デイリーコラムアウトドアブームに乗って大好評といわれる日産の「MYROOM」シリーズは、車中泊に強みをみせる特装車。ややお高い価格設定ではあるが、旅の宿泊費が浮くことを考えると……。実際のところお得なクルマといえるのか、識者が語る。